東京高裁で逆転無罪勝ち取る 特養あずみの里業務上過失致死事件裁判
7月28日に、東京高裁は、長野地裁松本支部の原判決(1審)を破棄し、被告人は無罪とする判決を下しました。東京高裁での公判はわずか1日で結審し、弁護団が準備した死因は脳梗塞とする医師らの鑑定書など新たな証拠は却下されたため、厳しい判決も予想されましたが、逆転無罪判決を勝ち取ることができました。
本裁判は2013年に特養あずみの里の入所者がおやつのドーナツを食べた直後に急変し、後に死亡。おやつを配膳後に他の入所者の介助にあたっていた准看護師が、業務上過失致死罪に問われ起訴されたものです。裁判の途中から提供すべきおやつの形態を確認せずにドーナツを配膳したことが食事形態確認義務違反だとする異例の予備的訴因の追加も行われました。
長野県保険医協会では、今回の起訴は施設内の死亡事例を特定の職員の犯罪として責任追及するもので介護現場の実態を無視した極めて乱暴なものであるとして、一貫して無罪を勝ち取る支援を行ってきました。
昨年3月の長野地裁松本支部の判決では、主位的訴因である注視義務違反は過失認定されませんでしたが、予備的訴因であるおやつの形態がドーナツからゼリーに変更された点について記録等で確認すべきであったとして罰金20万円の有罪判決が下されました。
今回の東京高裁の判決では、①被害者には嚥下障害はなく、1週間前までドーナツを含むおやつを食べており、窒息する危険性の程度は低かった、②被告人に職務上事前に形態変更を把握する義務はなかったことなどから、「窒息する危険性ないしこれによる死亡の結果の予見可能性は相当に低かった」としました。その上で、一審の過失判断には事実誤認があり、「具体的な予見可能性の検討をしておらず、是認することはできない」と批判しています。
一審の判決の問題点として挙げられているのは、利用者一般という概括的な存在を対象に、ゼリー系の指示に反して常菜系のおやつを提供すれば利用者が死亡する可能性があるといった広範かつ抽象的な予見可能性をもって被告に結果回避義務があるとした点で、今回の死亡した入所者に対するドーナツ提供による窒息の危険性や死亡結果に対する具体的な予見可能性は検討されていないことは重大な問題であると指摘している。
また、おやつの形態がドーナツからゼリーに変更されたことについて、申し送り・利用者チェック表などの介護資料を准看護師である被告がすべてを事前に把握しておく職務上の義務があったとはいえずとし、そもそも利用者65人分を合わせると相当量になる看介護記録の確認義務を肯定することはできないと現場の実態を踏まえた判断をしている。
また、今回の判決の注目すべき点は「窒息の危険性を否定しきれないからといって食品の提供が禁じられるものではない」、「身体的リスクに応じて幅広く様々な食物を摂取することは人にとって有用かつ必要である」と述べ、一審判決後に食事提供などで萎縮が広がりつつある介護現場に配慮した見解も示している。
高裁では死因について言及されることはなかったが、今回の事案において業務上過失致死罪で個人の刑事責任を問うのはあまりに杜撰な検察の立件判断と論理の飛躍があったということだろう。
今回、無罪判決となったが、無罪が確定したわけではなく、検察が判決日から2週間以内に上告すれば、再び最高裁で裁判が続くことになる。起訴されて5年以上が経過しており、一刻も早く被告人という立場から解放してあげることが求められる。東京高裁の判決でも、(これ以上)「時間を費やすのは相当ではなく、速やかに原判決を破棄すべきである」と述べている。
無罪を勝ち取る会では、8月6日締め切りで、「上告を断念するよう強く求める」の団体要請署名を呼びかけているので、幅広い団体の支援と協力を訴えます。
あずみの里裁判 支援のお願い