社会保障費の伸びを抑制 財政審が提言まとめる
財務省の諮問機関である財政制度等審議会は6月1日に財政健全化に向けた報告書をまとめた。報告書では「財政健全化計画」で示されるべき方向性として社会保障を中心に歳出改革を柱とした収支改善に取り組むことが強調されている。
社会保障分野については、高齢化による「自然増」を例外的に扱うことには合理性はあるとしながらも、全体としての伸びは、「高齢化による伸び」相当の範囲内に抑えていくべきであるとして、医療や介護などの社会保障費の伸びを年0.5兆円に抑えることを提言した。
麻生財務相は6月末にまとめる20年度までの財政健全化計画への反映を目指す構えである。
財政健全化計画等に関する建議
報告書では「医療・介護を中心とした制度改革と医療の効率化」としての具体策の主なものは以下の通り。患者負担増、公的給付の縮小、診療報酬引下げが目白押しである。
①国民皆保険を維持するための公的保険給付範囲の見直し
公的保険給付の範囲を重点化し、保険給付額を抑制して制度の持続性に貢献すると同時に、公的保険から外れた市場を産業として伸ばしていくイ)後発医薬品の使用促進
- 第一段階として使用率を平成29 年度内80%へ引き上げる。
- 第二段階として平成30 年度から、後発医薬品がある先発医薬品(長期収載品)については、公的保険による給付額を後発医薬品の価格までとする制度に改革する必要がある。
ロ)リスクの大きさやQOL(Quality of Life)/ADL(Activities of Life (日常生活動作))等への影響度に応じた保険給付範囲の見直し
- a)市販品類似薬等に係る保険給付の見直し OTC類似医薬品(シップ、目薬、ビタミン剤、うがい薬やいわゆる漢方薬などのうち長らく市販品として定着した銘柄)については公的保険から完全に除外すべき
- b)受診時定額負担・免責制の導入 現行の定率負担に加え、少額の定額負担を導入すべき。その際、かかりつけ医の更なる推進・包括払いへの移行といった観点から制度設計をすることも考えられる。
ハ)次期介護保険制度改革における軽度者に対する介護保険給付の見直し
- 軽度者(要支援、要介護1、要介護2)に対する生活援助サービスや、福祉用具貸与等は原則自己負担(一部補助)の仕組みに切り替えるべき。
- 軽度者の通所介護等のその他のサービスについては地方公共団体の予算の範囲内で実施する枠組み(地域支援事業)に移行すべき
二)在宅療養との公平確保等
- 入院患者の居室代負担の見直しなど
② サービス単価の抑制
イ)薬価
- 市場価格の調査に伴って既存薬価の引下げが行われるが、これについては、市場実勢価格の反映に過ぎず、診療報酬本体の財源とならない。
- 例えば、高価な生活習慣病治療薬が多く処方されている現状にあるが、同じ生活習慣病を対象とした治療薬が複数ある場合において、費用対効果の観点も踏まえ、専門家の知見を集めて処方の順番・ルールを設定し、保険給付の在り方を適正化すべき。
ロ)調剤報酬
- 保険薬局が果たしている機能に照らして調剤技術料が適正かどうか見直す必要がある。
ハ)診療報酬本体・介護報酬
- 診療報酬本体・介護報酬については、国民医療費や介護費は高齢化等の要因によって増加し、医療機関・介護事業者の収入総額は増加していくことを踏まえ、国民の保険料負担を含めた負担増の抑制の観点から、メリハリをつけつつ、全体としてはマイナスとする必要がある。
③ 負担能力に応じた公平な負担
イ)高齢者の負担
- 高額療養費制度を年齢ではなく負担能力に応じたものに見直していく。
- 医療の定率負担について70 歳以降において本則の2割負担が適用される者については、平成31 年度以降に75 歳に到達した後も引き続き2割負担とし、あわせて、平成31 年度の時点で既に75 歳になっている者についても、数年かけて2割負担に引き上げることにより、75 歳以上の定率負担を原則2割負担とする制度へ段階的に移行すべきである。
- 介護保険制度についても、原則1割負担・一定以上所得者2割負担となっているが、次期介護保険制度改革において、2割負担対象者の対象拡大や、月額上限(高額介護サービス費)について見直しが必要。
- マイナンバーを活用して、フローの所得だけでなく、預貯金等の金融ストックも勘案して、「現役並み所得」などの負担能力を判定する仕組みに変えていく。
ロ)就業先にかかわらない負担
- 被用者保険者間における保険料負担を人頭割から総報酬割にしていく必要がある。
ハ)高所得者の年金の見直し
- 老齢基礎年金に関し、現役世代と比べて遜色のない一定の所得を得ている高齢者については、国庫負担相当分の年金給付の支給を停止。
④ 医療の効率化
イ)医療提供体制の改革
- 病床機能の算定要件の厳格化を含め、「地域医療構想」に基づく病床の機能分化を実現する医師等の配置基準・診療報酬体系とする必要がある。
- 療養病床については、介護施設や在宅への円滑な転換を促すよう、療養病棟入院基本料を算定する際の医療区分2・3の算定要件の厳格化を行う。
- 「地域医療構想」の実施に際して都道府県の勧告等に従わない病院の報酬単価の減額等の措置を講じる必要がある。 ・・・など
ロ)医療の無駄排除、質の転換、予防の推進等
- 保険者がICT やマイナンバー等を活用してリアルタイムにレセプトデータ等を把握し重複受診や多剤投与をチェックできる仕組みの構築など。
- 受診・投薬が少ない被保険者へのインセンティブ措置(ヘルスポイントや保険料の傾斜設定)の普及など