無罪確定 あずみの里業務上過失致死事件 弁護団が記者会見
特養あずみの里業務上過失致死事件控訴審で、東京高裁は長野地裁松本支部の1審有罪判決を破棄し、被告人の山口さんに無罪判決を言い渡した。今回の判決に対し東京高検は上告期限の8月11日までに最高裁に上告せず、無罪が確定した。
新聞報道によると、東京高検の久木元伸次席検事は「判決内容を十分に検討したが、適法な上告理由が見いだせなかった」とコメントした。
今回の無罪確定を受け、本日14:00から弁護団による記者会見がyoutubeにライブ配信された。
木嶋弁護団長は、弁護団としての声明文の要旨を説明。東京高裁の判決について、死因は脳梗塞であることを示す確固たる証拠が採用されなかったことは残念であったが、原判決の過失認定の誤りは明らかである以上、死因に関する検討に時間を費やすことは相当ではなく速やかに原判決を破棄すべきだとした裁判官の意図は理解するとした。
高裁判決が、おやつ形態確認義務について第一審の予見可能性の範囲は広すぎ、また実質的検討はしていないため是認できないとして、(1)ドーナツによる窒息の危険性、(2)ドーナツが変更となった経緯、(3)介護職と看護職の間の情報共有の仕組み、(4)事前に形態変更を把握していなかった事情、(5)異変当日の状況、(6)食品提供の持つ意味といった厳密な事実認定をした上で、おやつの形態を事前に確認して、窒息等の事故を未然に防ぐ注意義務はないとして無罪と判断した点について、「判決は事実認定についても法律判断についても誠に正当なものだったと考える」と評価した。さらに、おやつを含めて食事は人の健康や身体活動を維持するためではなく、精神的な満足感や安らぎを得るために有用かつ重要であるから、その人の身体的リスク等に応じて幅広く様々な食物を摂取することは人にとって有用かつ必要であると判示したことに対しても裁判官の見識を高く評価する」とした上で、全国の介護現場では第一審判決により萎縮が広がったが、「高裁判決とその確定が我が国の今後の介護の現場に置いて、高齢者、利用者の希望に沿ったきめ細やかな介護が進められる契機となることを願っている。」と結んだ。
一方、(1)警察が根拠なく乱暴に捜査の対象としたこと、(2)警察が死亡について医学的原因を解明することなく過失致死として送検し、検察がこれを安易に起訴したこと。(3)過失についても基礎的な事実調査をしないまま安易に捜査、起訴がなされたこと、(4)公判においても当初の注視義務が成り立たないとみるや強引に訴因変更までしたことなど、警察、検察当局の数々の誤り、第一審判決の事実認定や判断の杜撰さは厳しく指摘されなければならないと批判した。控訴審判決とその確定は高齢者等の介護施設での食事時の急変、死亡に対して警察は業務上過失致死罪などを振りかざして安易に捜査に入るべきではないという重大な教訓をもたらしたが、本件起訴後の2015年12月1日に長野県当局が長野県警本部の要請によって長野県下の福祉施設に対して入所者が死亡した時には警察が事件性を判断する必要性があるからといって警察活動に協力すべきとする通知を発していることについては、速やかにその通知の撤回を求めたいとした。
全日本民医連事務局長の岸本氏は、支援団体の共同声明にふれ、「当初からこの裁判は介護の未来がかかっていると訴えてきた。この裁判を契機に、介護の現場では萎縮が広がった。その人らしいことを応援する介護が萎縮することは利用者さんにとって本当に不幸なことにつながる。終の棲家として最後までその人らしい生活を最後まで安心して過ごせるように更なる福祉や介護の制度の充実をこの高裁判決は述べたのではないかと思っている。」として、今回の判決の趣旨が日本中に広がるよう記者団に訴えた。
山口けさえさんの尊厳を守り、介護の未来に希望を取り戻した 東京高裁判決の無罪判決確定にあたって(共同声明)
特養あずみの里事件の東京高裁判決確定にあたって (弁護団声明)
また、報道各社から事前に寄せられた質問をもとに弁護団と山口さんとの質疑応答がされたが、今回の上告断念に対して山口さんからは「無罪判決が確定してよかった。ほっとした気持ちです」と喜びの声が返ってきた。